精神神経免疫学による「情動ストレスと免疫」

遠隔送気時において対面時と類似した変化が認められ、遠隔送気により受信者の免疫能が向上しているのが示唆された。
『without peer-review vol.19,No.2 September 2001 ISSN341-9226』より抜粋


◆遠隔送気時における免疫動態

気功師の異なるレベルの高い気功師3名により遠隔送気を行い、約2km~4km離れたそれぞれ2名づづの受信者における静脈血中のナチュナルキラー(NK)細胞活性インターロイキン-2(IL-2)、CD4/CD8などの変動を測定した。遠隔送気40分後においてNK細胞活性は対照群に比し、有意に増加した。IL-2は遠隔送気直後で増加傾向を示した。CD4/CD8は遠隔送気40分後において減少した。これらのことから遠隔送気時においても対面時と類似した変化が認められ、遠隔送気により受信者の免疫能が向上しているのが示唆された。
Keywords: Remote qi emission, NK cell activity,IL-2,CD4/CD8

1.初期の免疫防御群のはたらき

生体にそなわった免疫系は、よく知られているように病原微生物の進入に対抗して多段階の防御手段を準備している。まず体の表面では皮膚が気道や消化管では粘液や上皮細胞が障壁の役目を果たしている。粘液中には、抗体の一種であるIgAが含まれており、皮脂腺の分泌物や涙・唾液・汗に含まれているリゾチームなどの抗菌物質あるいは胃酸には、病原微生物の進入に対して防御的に作用する。

2.自然免疫系の出動

これらの防御線を破って体内にウィルスなどの病原微生物が侵入してくると、まず自然免疫と呼ばれる免疫反応が起こる。自然免疫とは、抗原に非特異的(相手かまわず)に反応する。細胞群が主役となって直ちに応戦が開始される免疫反応である。具体的には、好中球やマクロファージなどによる異物の貧食すなわちウィルスを取り込み分解する作業が行われる。

この時、マクロファージや好中球、インターロイキン1、TNF、インターフェロンなどの数々の免疫調節作用を有するサイトカインを放出する。NK細胞はウィルスが感染し、病的な状態にいたった細胞を発見し排除しようと活躍する。また、補体の活性化も起こる。補体とは血液中に存在し、病原微生物や抗体により活性化され病原微生物の除去にはたらく蛋白のことである。

3.獲得免疫系の出動

自然免疫に続いて、T細胞とB細胞が主役を務める抗原特異的(相手を特定した)な免疫反応、すなわち適応反応が起こる。適応反応は樹状細胞を代表とする抗原提示細胞によりスイッチが入れられる仕組みになっている。

具体的には、病微生物を取り込んだ抗原提示細胞が、まず、その病原微生物の構成成分をこれらT細胞、B細胞などのリンパ球が認識できる形に変えて膜表面に提示する。この時抗原提示細胞はサイトカインをリンパ球に向かって放出する。このように提示された抗原と結合できる受容体をもつリンパ球のみがサイトカインの作用を受けて活性化され、分化し数が増える。

4.ヘルパーT細胞とキラ-T細胞の役割

たとえば、抗原提示されたT細胞は、ヘルパーT細胞と呼ばれる細胞に分化する。キラーT細胞は抗原特異的にウィルス感染細胞を攻撃する。同じく抗原提示されたB細胞だけが、ヘルパーT細胞から分泌されるサイトカインの作用を受けて、プラズマ細胞と呼ばれる細胞に分化し、それまでは抗原の受容体として膜表面に保有していた免疫グロブリンを、今後は抗体として細胞外へと分泌するようになる。このようにして、進入した病原微生物あるいはそれらが感染した細胞をめざして、感染2-3日後から始まり5-7日でピークになる。

5.適度な免疫反応

免疫反応にとって、もっとも大切なことは、それが適切なレベルに維持させることである。免疫応答が弱すぎれば感染や発がんを十分に防御できなく、逆に感染防御のためとはいえ、免疫応答が過剰になりすぎれば、逆にアレルギーや自己免疫病を起こしかねない。そこで状況に応じて常に適度な免疫応答を維持させるためには、じつは免疫系の活動は二重、三重の調節を受けているものと推定される。

6.情動ストレスによる神経内分泌系への影響

情動ストレスを受けると、血中に放出されたACTH(脳下垂体から放出される副腎皮質刺激ホルモン)は、血流で運ばれた副腎皮質の細胞に作用してコルチゾールの産生を高める。コルチゾールは免疫機能、特にヘルパーT細胞の機能を強く抑制する物質である。ACTHは、さらに免疫細胞に対しても直接作用して抗体の産生を抑制したり、インターフェロンの産生を抑制する。

7.情動ストレスによる自律神経系への影響

一方、情動ストレスの影響は、内分泌系経由だけでなく、自律神経を介してして免疫機能を修飾する。脾臓やリンパ節は、リンパ球が抗体と反応したり、リンパ球同士が相互に情報をやりとりする場として重要で、これらのリンパ組織は、交感神経および副交感神経、両方の自律神経の支配を受けているのである。

8.交感神経が興奮すると

また、ある種の免疫細胞には交感神経が興奮したときに神経終末から放出されるノルアドレナリンの受容体がそなわっている。そこでたとえば、NK細胞をはじめとするリンパ球あるいは好中球はノルアドレナリンの作用を受けるとその機能が抑制される。したがって、交感神経が興奮するならば、ノルアドレナリンを介して、今はまだ未知の作用を含めて、さまざまな作用が脾臓の免疫細胞に及ぶと考えられるのである。(福田ー安保理論では,交感神経が興奮すると,リンパ球の機能は抑制されるが,好中球の機能は促進される)

9.副交感神経が興奮すると

一方、脾臓を支配する副交感神経が興奮すると、神経終末からアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が放出される。一般にアセチルコリンがリンパ球のアセチルコリン受容体を刺激すると、抗体の産生やキラーT細胞の機能が高まることが知られている。

10.交感神経と副腎髄質は兄弟

自律神経を介した免疫系への影響には自律神経の支配を受けるリンパ組織経由の影響のほかに、緊急反応のとき、交感神経が興奮する際に副腎髄質から血中へ直接放出されるアドレナリンやノルアドレナリンが体循環で運ばれ、免疫細胞に作用して起こる全身的な影響も加わってくる。自律神経系の免疫系への影響もなかなか複雑のようである。(こころと体の対話 神庭重信 文藝春秋より抜粋)